居酒屋でバイトする僕が酔っ払った女性を介抱してそのまま

By | September 27, 2015

『本当は見得ていた』

そこは、商店街裏の、ゴミ集積場でした。居酒屋でバイトする僕が、たまったゴミを捨てにその集積場にいったとき、段ボールやらゴミ袋がならぶあいだに、女性のあしがみえました。死体! おもわず腰を抜かしそうになった僕は、辺りに誰かいないか見回しました。表の通りになら、行き来する人々でいっぱいでも、裏手となると人気はとんとなく、動くものといえばこのあたりに住み着いたノラ猫ぐらいなものでした。
僕は、もう少しよくみようとして、身をかがめながら、伸びている足のそばに近よりました。
靴をはいたままのあしは、大きく開いていて、さらに近づくと靴と同じ黒のスカートがみえだし、その先にスーツを着こんだ女性の顔があらわれました。女性は口で息をしています。まだ若い顔は赤く染まり、どうも酔っぱらってここで横になって眠ってしまったようです。
仕事の帰りに飲み会にでもでて、調子に乗って飲んだのでしょう。いっしょに飲んだ連中はどうしたのか、彼女をほったらかして帰ってしまったのでしょうか。
僕は、爆睡している彼女をみているうちに、だんだん気の毒に思えてきて、目を覚ますようにゆさぶってみましたが、かすかに目をひらきかけたものの、またすぐ寝息をかき出す彼女でした。
傍に新聞が束にしてすててあったので、それをほどいて一枚をひろげ、彼女のあしの上においてやりました。それから僕は店にもどり、おしぼりを数本もってきて、彼女の顔をつめたいタオルで拭いてやりました。
背後から数人の男女の話し声がきこえたと思うと、ゴミ集積場の前でたちどまりました。
「あ、ここにいた。やっとみつけたわ」
「お知り合いの方ですか」
僕が聞くと、一人の女性が、
「道端にしゃがみこんでしまったので、そっとしておいたら、いつのまにかみえなくなって、私たち、あちこちさがしていたら、こんなところで寝ていたのです」
「酔った人をほっておくのは、犯罪ですよ」
「すみません」
かれらは素直に頭をさげました。寝ていた彼女は、みんなにだきかかえられて、立ち去っていきました。
三日後、僕のバイト先の居酒屋に一人の女性がたずねてきました。それがあのときゴミ集積場で爆睡していた彼女だとわかるまで、僕はかなりの時間を要しました。
「あのときはありがとうございました。新聞までかけてくださって、感謝しています」
あとで同僚たちに、そのことを彼女は教えられたらしいです。
「こんどからは、量を考えて飲んでくださいね」
「これからは、あなたの勤めるこのお店で飲むことにしますわ」
そして彼女は本当に、それからというもの、僕のつとめる居酒屋に、同僚をつれて、またひとりで、飲みにくるようになりました。
あらためてみると、なかなかかわいらしい女性です。
僕と彼女はしだいに親しくなっていきました。あのとき彼女にかけた新聞髪が、彼女の僕にたいする気持ちを確かなものにしたのだそうです。たった一枚の新聞紙が、僕たちをむすびあわせたのでした。
「あのとき、みえてました?」
いまでも恥ずかしそうに、彼女はたずねました。もちろん僕は、みえてなかったよと答えましたが、いまでも僕のまぶたには、あのときあしのつけ根にみえていた白いものが、くっきりと焼き付いていたのでした。

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